情報が「フリー」になる世界でビジネスに未来はあるか


●マイクロソフトとマードックのウェブへの挑戦
 今年は海外で新聞社の経営破綻が相次いだ。日本でも、新聞社や放送局が軒並み赤字になり、そのあとを追うだろう。これに対するメディア側の対応策は大きく分けて二つある。無料化の流れに乗ってアクセスを増やす方向と、それに抵抗して在来のビジネスモデルを守る方向だ。
 このどちらが正しいかを占うのが、マイクロソフトとニューズ・コーポレーションの提携をめぐる動きだ。今のところ、両者とも公式にコメントしてないので推測の域を出ないが、マイクロソフトが新しい検索エンジンのBingで、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)などニューズ社のメディアのコンテンツを独占的に表示する代わりに、ニューズ社に料金を支払う意向を伝え、それにニューズ社のオーナー、ルパート・マードックが応じたという経緯のようだ。
 これはグーグルなど他の検索エンジンからWSJが検索できなくなることを意味するので、「インターネットを昔の閉じたネットワークに引き戻す時代錯誤の試みだ」と批判の声が上がったが、実態はよくわからない。WSJへのアクセスの1/4はグーグルから来ており、それを切ることで広告収入が減ると、マイクロソフトからの収入より大きな損害になるかもしれない。マードックのねらいは、グーグルと(ニューズ社の傘下にある)MySpaceとの契約を延長させる取引ではないか、など憶測が飛び交っている。
他方、ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストはGoogle Living Storiesというサイトで、グーグルとの連携を強め、アクセスを増やすことで危機を乗り切ろうとしている。これはグーグルがトピックを設定し、それに関連する記事を両社のアーカイブから検索して表示するものだ。これによって検索の順位も上がるので、アクセス増が見込めるが、それが両社の経営危機を救うかどうかは疑問だ。
 公平に見て、どちらも茨の道だろうが、彼らがウェブに対応したビジネスモデルを模索していることは重要だ。WSJにもニューヨーク・タイムズにも共通しているのは、紙の新聞の寿命があと10年もなく、それまでに代わりのビジネスモデルを確立しないと新聞が成り立たなくなるという危機感である。マイクロソフト=マードックの試みは評判が悪いが、いくら「オープンなインターネットを守れ」といっても、ビジネスとして成り立たなければコンテンツが出てこなくなるので試みる価値はある。成功するとは思えないが。

●無料経済」への流れは止まらない
 これに対して日本の新聞社やテレビ局の対応策は、さらに時代錯誤だ。新聞はウェブには記事を全文掲載せず、テレビもごくわずかの番組しかウェブには出さず、リンクも1週間ぐらいで切れてしまう。「リンクが切れたからテレビで見よう」という視聴者がいるとでも思っているのだろうか。NHKオンデマンドにいたっては、1年間でたった140万アクセスという惨状だ。
クリス・アンダーソンの新著『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(NHK出版)は、情報が無料になることは避けられないので、情報は無料で開放し、それに付随するサービスやイベントなどで儲けるべきだと提言している。経済学の教えるように、需要と供給で価格は決まるので、供給が絶対的に過剰なデジタル情報は無料になる。それに価格をつけるには、なんらかの方法で稀少性を作り出すしかない。
 たとえばEconomist誌は最近、ウェブサイト(印刷版)の全面有料化に踏み切った。同誌は世界の指導者が読んでおり、その記事は専門家向けで一般のメディアには出ていないので、金を出しても読む価値があるからだ。同じ意味で成功しているのは、ポルノサイトである。普通のサイトがポルノを流すことはできないので稀少性があるのだ。
 情報が過剰になるとノイズが増えるので、不快な情報を排除するフィルタリングには需要があるかもしれない。企業秘密が盗まれたりウイルスが侵入したりするリスクが高まるので、企業はセキュリティには金を払う。ウェブでは得られない情報を提供するイベントと結びつけて儲けるビジネスもある。いずれにせよ、過剰になった情報を使って稀少性を作り出すことが今後のビジネスモデルだ。
 しかしこうしたビジネスは、在来メディアにはむずかしい。彼らはコンテンツ制作に特化し、紙や電波などのインフラ独占によって高い広告料をとるビジネスで利潤を上げてきたので、広告以外の情報サービスで収入を上げるノウハウをもっていないからだ。この意味では、アメリカでコムキャストがNBCを買収したように、インフラ企業のコンテンツ部門として生きていくしかないのかもしれない。
 どういうビジネスが成り立つかどうかわからないが、間違いないのは、アンダーソンも言うように情報が無料になる流れは止まらないということだ。イノベーションとは単なる技術革新ではなく、このような新しいビジネスモデルを開発することだ。この「無料経済」の先に、アンダーソンが言及する、企業に代わって個人が主役になる新しい社会があるのか、それとも資本主義が没落して情報の生産が止まるのかはわからない。確かなのは、この流れを逆転させることは不可能であり、それに抵抗する者は淘汰されるということだけである。

(via tamariba) (via yaruo)
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